Wunderkammer ** 司書の読書ブログ **

神戸で「なごやか読書会」を主催している羽の個人ブログです。

『未来のだるまちゃんへ』


日本が誇る絵本作家・かこさとしさん。

未来のだるまちゃんへ』では、かこさんの生い立ちから始まり、戦時中〜敗戦の経験、大学時代の演劇研究会、社会人時代のボランティア活動、その後の絵本作家としての活動が語られ、これからを生きる子どもたちへのメッセージで締めくくられている。

かこさんは、初めから絵本作家を目指していたわけではなかった。中学二年生のときは軍人を志していたという。でも、視力が悪くてなれなかった。

敗戦後は、雑草を食べながら生き延びた。死んでしまった仲間を横目に、自分は死ねずに残った「死に残り」だと感じたそうだ。

大人はもう信じられない。敗戦は自分にも責任があるから、罪を償いたい。そして、何か子どもたちの役に立てないだろうかと思い、活動を始めた。

大学では演劇研究会に所属し、子ども向けの作品を書き、社会人になってからはセツルメント(今でいうボランティア)で紙芝居を始めた。

子どもたちに混ざって、遊びを教えてもらったり、伝承遊びを調査したり、郷土玩具を調べたり。そうするうちに、子どもたちの個性、観察力、自発性を尊重するようになった。そして、だるまちゃんシリーズや科学絵本シリーズが生まれた。

子どもたちには、生きることをうんと喜んでほしい。生きることは苦しみを伴うけれど、自分で考え、判断することができれば、その苦しみを和らげることができる。かこさんはそう考えていた。

思うに、物語は、読んで楽しむ一瞬のためにあるのではない。読者の考え方や判断、その後の人生観に影響を与える。子どもたちは、これからどうやって生きていけばよいかを、物語を通して学んでいく。

だから、大人は、子どもたちに「ああしなさい」「こうすれば幸せになれるのよ」と言わなくても、ただ、よい物語と出会うきっかけを作ってあげるだけでいい。もしも自分がその立場になったら、かこさんの本を手渡してあげたい。


紹介本:『未来のだるまちゃんへかこさとし

関連本:『だるまちゃんとてんぐちゃんかこさとしだるまちゃんシリーズはこれがいちばん好きだ。「はな」の場面が特に。対象年齢3歳〜