Wunderkammer ** 司書の読書ブログ **

神戸で「なごやか読書会」を主催している羽の個人ブログです。

『えほんのせかい こどものせかい』

あなたは、子どもの頃、誰かに読み聞かせをしてもらいましたか?

もしあなたが親なら、自分の子どもに、読み聞かせをしてあげています(いました)か?

今日は、文字が読めない子どものために、わたしたちに何ができるのかということについて考えてみます。
最後に絵本リストも載せていますので、ぜひ最後まで読んでみてくださいね。

えほんのせかい こどものせかい』は、子どもに絵本を読み聞かせようと思ったときに参考になる本です。


著者の松岡享子さんは慶應義塾大学図書館学科卒業後、ウェスタミシガン大学大学院で児童図書館学専攻した後、ボルチモア公共図書館勤務し、現在は東京子ども図書館名誉理事長をされています。


松岡さんは、こう述べています。

“どうぞ幼い子どもたちに、本を読んでやってください。お話をしてやってください。ともに本を読む幸福感を味わってください。その幸福感がら読み手にも、聞き手にも、のちのち大事な実りをもたらしてくれることを信じて-”

 

さて、ふだん読み聞かせをしている方々にとっては、以下のような疑問がでてくることもあるでしょう。

・子どもが字を読めるようになったのに、読み聞かせをねだる
・子どもが似たような本ばかりよんでいる
・よい絵本の条件とは?

今日はこの三点について、著者の見解を本文より抜粋します。


Q. 子どもが字を読めるようになったのに、読み聞かせをねだります。

A. 読み聞かせを受ける子どもは、物語といっしょに、読み手のもつ、文学を味わいたのしむ能力をも、あわせて吸収することになります。
このプラスアルファとでもいうべきものは、読み手によって、もちろん大いに違ってきますが、これがあるからこそ、声に出して読まれた物語は、目で読むのと違ったおもしろさがあり、すぐれた読み手によって読まれた物語が、しばしば、自分が活字から引きだしてくることのできなかった味わいを教えてくれるのだと思います。読み聞かせが大事だという意味は、まず、ここにあります。物語といっしょに、読み手のプラスアルファが、子どもの中に受けいれられること、それを、心にとめていただきたいと思います。
おとなが、子どもに本を読んでやるとき、おとなの声に乗って子どもの心に運ばれていくのは、物語プラスアルファだけではありません。読み聞かせという行為それ自体の中に、おとなはどう思っていようが、子どもは、おとなの自分に対する愛情を感じとっています。(p32-33)

Q. 子どもが似たような本ばかりよんでいます。

A. これといって、自分から読んで見ようと思う本もない...といった子どもより、夢中になる本が何冊かあり、その線にそって自分で本を見つけようとする子どもの方が、たとえ読むものにかたよりがあったとしても、読書から、本質的な益を得ているといえないでしょうか。それに、子どもの、本に対する興味は、時間的にいろいろ変化、発展していくものです。距離をおいて、ゆったり見守ってやってもらいたいものです。(p87-88)

Q. よい絵本の条件とは?

まず、絵本の絵は、おとなにとっての文と同じ働きをしているのだから、それによってものが考えられる-お話のすじがたどれ、作中人物の気持がわかり、作品全体のムードが感じられる-ようなものでなければいけないこと。つぎに、子どもたちは、絵によって、自分たちがすでに実生活から得た知識を補ったりしているのだから、絵本の絵は、細部に至るまで、正確でなければいけないこと。また、絵本をたのしむことは、それ自体に価値のある芸術的な経験なのだから、絵本は、子どもたちに美的満足を与え、より質のよい美しさの世界へ子どもを引き上げてくれるものでなければいけないこと、などです。 (p69-70)

絵本を評価する場合、わたしは、いつも、三本の“足”を考えています。一つはここにあげたようないくつかの条件を頭においておくこと。もう一つは、すでに何年かの間、子どもたちに愛され、いわば古典になっている絵本-『ちびくろ・さんぼ』や『ちいさいおうち』や『ひとまねこざる』など-を思い浮かべること。そして、三番目には、できるだけ虚心に、できるだけ子どもが絵本を読むときの心に近づいて、絵本に対することです。(p70)

 

本書で紹介された、年齢別の読み聞かせに向く絵本も挙げておきます。子どもの発達段階に合わせて柔軟に選んでみてください。

3歳:『ティッチ

のろまなローラー


3、4歳:『ちいさなうさこちゃん


3〜5歳:『どろんこハリー


4歳:『てぶくろ


4、5歳:『ぐりとぐら

もりのなか

いたずらきかんしゃちゅうちゅう

ゆかいなかえる

りんごのき

 

4歳〜小1、2年:『わたしとあそんで

 

4、5歳〜小学生:『あおい目のこねこ』 

 

おさるとぼうしうり


4、5歳〜小2、3年生:『いたずらこねこ

 

5、6歳:『ラチとらいおん』 


6歳:『ものぐさトミー

 

5、6歳〜小学校高学年:『かいじゅうたちのいるところ


小学生〜:『ちいさいおうち

はなのすきなうし


小1、2年生:『だいくとおにろく

 

本書は薄い文庫本ですので、子育てや家事でゆっくり本を読む時間のないおかあさん、おとうさんにも読みやすい本です。また、保育園や幼稚園の先生、小学校低学年の先生、図書館の児童担当、子どもの読書に関わるボランティアの方々、これからそのような者になろうとしている方も、ぜひ手にとって読んでみてくださいね。

最後に、松岡享子さんの想いを記しておきます。

“どうか、これからも、多くのおとなが、子どもたちが絵本を仲立ちに、たのしく本の世界にはいっていけるよう、手を貸してくださいますように。この小著が、そのきっかけをつくり、その助けになりますように。”

 

紹介本:『えほんのせかい こどものせかい』松岡享子

 

関連本:『ランドルフ・コールデコットの生涯と作品』ジョン・バンクストン著 吉田新一

19世紀後半に活躍した絵本作家。1937年には「前年中に合衆国で出版された、子どものためのもっともすぐれた絵本の画家に与えられる賞」の名にもっともふさわしい絵本作家として彼が選ばれました。「コールデコット賞」は今も発表されています。