Wunderkammer ** 司書の読書ブログ **

神戸で「なごやか読書会」を主催している羽の個人ブログです。

『総予算33万円・9日間から行く!世界一周 大人の男 海外ひとり旅』

「新婚旅行で、世界一周したい!」と言いはる人間がいる。

...わたしだ。

行きたい国が、チェコ、スイス、スペイン、フランス、イスラエルだから、どうせなら地球をぐるっと回って世界一周しようよ。
フライト時間が長ければ、深夜便にして機内で眠ればいいじゃない?

とまあ、楽観的な思考の持ち主が考えそうなことを考えているわけで、一般的な社会人が何週間も休めるわけないし、お給料だって雀の涙だ。

 

それなら、行けるかどうか、下調べをしてから決めよう。まずは世界一周のお手本を見てみようと思い、手に取った本がこちら。

総予算33万円・9日間から行く!世界一周 大人の男 海外ひとり旅

「男」とか「ひとり旅」とか書いてあるが気にしない。

 

著者は旅ライターの伊藤伸平さん。編集者・ライターとして「地球の歩き方」シリーズの創刊に携わり、現在も「地球の歩き方 オーストラリア」を担当されている。いわば旅のプロだ。

安いフライトやホテルを探すのには、コツがいる。
フライトはスカイスキャナーなどの比較サイトで、3ヶ月前から(ハイシーズンは半年前から!)探すと、安いチケットが手に入りやすい。
本書では、各アライアンスが発売している世界一周航空券ではなく(こちらだと航空券だけで40万円以上する)、片道切符の乗り継ぎで世界一周をするスタイル。この場合、トランジットの時間や滞在日数なども考慮した上で、チケットを発券することになる。
航空会社によっては無料宿泊などのトランジットサービスがあるので、事前に各ホームページでチェックしておくとよいだろう。

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ホテルもトリップアドバイザーなどの比較サイトで探し、直前までキャンセル料のかからないホテルを押さえておく。キャンセル料が発生するまでは、より安いホテルの空きが出ないかチェックするのがベストだ。
もしアメリカに行くなら、こんな手もある。
“宿泊まで1週間を切った主要都市の3〜5つ星ホテルの空室は、ホットワイヤーhotwireというサイトで格安で予約できる場合が多い。特にサイトの本拠地であるアメリカ主要都市のホテルは格安となるので要チェック”。

海外で使う携帯のフリーSIMは、アマゾンで購入できるAIS SIM 2 FLY GlobalThree with 12GB dateが良いだろう。コスパ的に、わたしは後者のほうが良いと思う。

 

本書の構成は、
1. 短期世界一周の組み立て方
2. 短期世界一周モデルプラン
3. 短期世界一周Q&A
4. 《ゲルニカ》を巡る短期世界一周

4の旅程が、想像以上に「大人の旅」だったので、ここで、ブログ読者の皆様にも共有したい。


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旅は、テーマを決めるといい。
伊藤さんは「《ゲルニカ》を巡る短期世界一周」というテーマで、約33万円・9日間の世界一周した。旅程は、

羽田

北京(無料トランジットホテル利用・北京観光)

ニューヨーク(①ゴスペル、②メジャーリーグ、③自由の女神、④★国連本部など)

パリ(⑤★ウンターリンデン美術館ピカソ美術館、⑥オルセー美術館ルーブル美術館

スペイン(⑦ビルバオゲルニカマドリード観光、⑧☆ソフィア王妃芸術センター、⑨トレド)

★は《ゲルニカ(タピスリ)》鑑賞

☆は《ゲルニカ》鑑賞

①ゴスペルというのは、タイムズスクエア教会の日曜朝のミサに出席して本場のゴスペルを聴くこと。

メジャーリーグでは田中将大投手が登場すると知り、直前にスタブハブというチケット売買サイトでチケットを購入。

自由の女神事前予約しないと入場できない。
“女神像が立つ台座の中に入るのも数週間前の予約が必須、王冠まで登るチケットにいたっては、数ヵ月前に完売するのが当たり前だ。”
自由の女神は旅のサブテーマになり、著者は旅程に変更を加えた。

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④国連本部の安保理事会会議場ではツアーを開催しているが、ツアーでは《ゲルニカ(タピスリ)》を見ることはできない。著者は知人友人に尋ね、関係者を見つけ、頼みこんで見せてもらっていた。

ウンターリンデン美術館があるコルマールは、ジブリ映画『ハウルの動く城』や、ディズニーのアニメ映画『美女と野獣』の舞台と噂され、最近注目を集めている町だ。 自由の女神像を造った彫像家バルトルディの故郷でもある。

オルセー美術館2階にあるレストラン・ミュゼ・ドルセーは、美味しくて手頃な価格だそうだ。

⑦“ビルバオは2018年「世界のベストレストラン50」の授賞式を 行った美食の町。そう、バスク地方は世界有数のグルメ地区なのだ。そしてその「食」を支えているのがバル文化だ”。

⑧“日曜の午後は、ソフィア王妃芸術センターの入館が無料になる。すべての展示エリアは無料開放とはならないものの、《ゲルニカ》をはじめとする人気作品の多くは鑑賞可能だ”。
ここの《ゲルニカ》を見て心を鷲掴みにされた著者。思わず、涙ぐんでしまったという。

⑨“「スペインに1日しかいないのならトレドへ行け」という格言があるほどの世界遺産都市”だという。スペイン・カトリックの総本山のカテドラルは、期待以上のすばらしさだったそうだ。

帰国後、群馬県立館林美術館で開催されていた「ピカソ展-ゲルニカ[タピスリ]をめぐって」で《ゲルニカ(タピスリ)》を鑑賞し、旅は終結した。

 

なんだか、とても良い旅だ。知的好奇心が溢れていて、センス抜群だ。わたしも美術館巡りが好きなので、きっとめちゃくちゃ楽しいだろう。
生まれて初めて、旅程の組み方まで好きな人の紀行文を読んだ。

アルザス地方のシュークルート・コルマリーネの美味しさだとか、海外LCCに乗った感想だとか、旅先で得た知識をもとに、柔軟に旅程を変えたというような話を読むと、わたしもその場で一緒に旅しているような気分になった。

 

やっぱり、世界一周、行きたいな。

 

紹介本:『総予算33万円・9日間から行く!世界一周 大人の男 海外ひとり旅

 

 

関連本:『八十日間世界一周(上) (下)ジュール・ヴェルヌ

『総予算33万円〜』に『八十日間世界一周』の引用文が多数あった。世界一周前に読みたい。

 

暗幕のゲルニカ原田マハ

 

本は人を旅に連れ出す。原田マハの小説は特にそうだ。美術に詳しくなくても楽しめるし、美術への扉を開いてくれる良書だ。