Wunderkammer ** 司書の読書ブログ **

神戸で「なごやか読書会」を主催している羽の個人ブログです。

『人新世の「資本論」』

みなさん、気候対策ってされていますか?
エコバッグやマイボトルを持ち歩いている?車をハイブリッドカーに替えた?
実は、それだけでは、気候危機には立ち向かえません。

それはなぜか?
資本主義経済を続ける限り、気候変動を止めることは不可能だからです。グリーン・ニューディールも最先端技術も、その危機を生み出している資本主義という根本原因を維持しようとする限り、気候変動は止められないのです。

人新世の「資本論」』では、以下の5つがその根本原因に挙げられています。
①「価値」のほうが「使用価値」よりも高い
(ex: 先進国に農産物を輸出する国の国民が飢えている)
②ブルシットジョブによる長時間労働
③職人の減少
④大株主の存在、知的財産権、大企業による市場の独占
⑤低賃金のエッセンシャルワーカー

そこで、眠っていたマルクスの『資本論』を呼び起こし、資本主義を抜本的に変えようというのが本書の主旨です。

ご存じのように『資本論』の第二巻、第三巻は、マルクスの死後エンゲルスが刊行したものであり、マルクスの最晩年の思想が排除されているといわれています。マルクスは、最晩年になって資本主義批判をしていました。 彼が目指していたものは、生産力至上主義→エコ社会主義→脱成長コミュニズムと、晩年になるにつれて転化しました。

著者は「人新世」の危機に立ち向かうために、最晩年のマルクスの「脱成長コミュニズム」が欠かせないといいます。『資本論』の第一巻を執筆後、自然科学と共同体社会を研究するようになったマルクスは「持続可能性」と「平等」にたどりつき、それが現在の脱資本化、脱成長の手がかりになるといいます。

マルクスに詳しい方は、この大胆な新解釈に驚かれた方も多いでしょう。

 

気候危機に歯止めをかける方法は、市民が〈コモン〉を結成することにあります。つまり人々が生産手段を自立的・水平的に共同管理するのです。協同組合や地域社会とのつながりを取り戻すのです。これ以上見せかけの気候対策はやめにして、市民が、政府や企業に働きかけなければなりません。

 

難しい?

 

いえいえ。

超富裕層とそれ以外の人々との比率(1:99)を考えてみたらどうでしょう。99%のわたしたちが一人でも多く抗議運動に参加したり環境NGOなどの活動をするだけで、バルセロナの「フィアレス・シティ」のように、市民運動が地域密着型の政党を生み、党から新市長が生まれ、市民の声がいつしか政治を動かすようになるのです。

 

正直、この本を読むまで、今の生活水準を疑ったことがありませんでした。お店の棚には商品が潤沢にあり、生活必需品は安価で手に入り、美味しいものにも溢れています。

生まれた時から当然のものとして享受してきた快適な暮らしは、どれほどの環境負荷をかけてきたのでしょう。先進国で暮らすわたしのような人間が「当たり前」の生活を続けるために、どれほどの犠牲を周辺国に強いてきたのでしょう。

 

世界的に見ると、大勢の日本人が富裕層の地位を占め、富裕層は世界で排出される二酸化炭素の半分を排出しています。
目の前で海面が上昇しているわけでも、森林が枯れているわけでもない。日本とは別のどこかで海面が上昇し、森林が枯れているのです。そのことを知ってしまった今、「生活を見直さなければ」という意識が強まりました。

これからは「脱成長」を掲げる環境運動に関わっていきたいと思います(探し中)。引き続き、気候変動についての本も読んでいきたいと思います。

 

紹介本:『人新世の「資本論」』斎藤幸平

 

関連本:『WEの市民革命』佐久間裕美子

アメリカのミレニアム世代の消費アクティビティも地球温暖化を止めるための運動だ。『人新世』を読む前後に読むと腑に落ちる。

 

土・牛・微生物 文明の衰退を食い止める土の話』デイビッド・モントゴメリー

慣行農法を続ければ土壌の劣化は進む、と地質学者の著者は指摘する。土から流れ出た化学物質は川へ流れ、やがて海へと運ばれる。土壌肥沃度を回復するために必要なのは、なんと微生物だった。