Wunderkammer ** 司書の読書ブログ **

神戸で「なごやか読書会」を主催している羽の個人ブログです。

『妻はサバイバー』

新聞記者の著者が、長年にわたって介護した妻のことを綴ったノンフィクション。

結婚して3年後、妻29歳の時に摂食障害が発覚。過剰な食べ吐きを繰り返し、入退院を繰り返すようになる。性被害をきっかけに心療内科に通い始め、大量服薬でまたも入院。アルコールに依存するようになり、急性肝炎で入院。解離性障害精神科病院にも入院。さらに妻46歳で認知症が判明。

 

本書は、壮絶な人生を歩む妻のサバイバル記だ。妻は、寝るか吐くか飲むか「死ぬ」と叫ぶか。ふたりで笑い合うことも知的な会話もできず、激務の合間に妻を介護する生活に、著者自身も、心を壊してしまう。

 

わたしなら、他人に振り回される人生なんてまっぴらごめんだ。手に負えない他人の人生まで引き受ける自信はない。

 

しかし、著者は朝日新聞の記者を続けながら、常に妻の安否を気遣い、自身も精神科を受診するくらいダメージを受けながらも、懸命に妻を支えつづけた。いくら離婚が頭をよぎっても妻を見捨てなかった理由には、愛を上回るものがあったからなのかもしれない。

 

どれほど頑張っても精神疾患のひとの胸の内を理解することは不可能だと、わたしは思う。けれども、その家族や、そばにいて支えてあげるひとの心の中は、本書で感じることができる。当事者の思いが、心に強くうったえる。

 

子どもの頃に負った深い傷は、大人になってからもその人の心を蝕み続ける。妻は、奈落の底に何度も堕ち、どれほど自分を追い詰めようとも這い上がる。本当は死にたいのではなく、それでも生きたいのだ。当事者とその家族にしかわからない内面を明かしてくれた本だった。

 

紹介本:『妻はサバイバー』永田豊


関連本:『牧師、閉鎖病棟に入る』沼田和也

閉鎖病棟ではどのような人がどのように暮らしているのか、現役牧師の著者が入院することになった経緯や、退院した後の暮らしについてなど。