Wunderkammer ** 司書の読書ブログ **

神戸で「なごやか読書会」を主催している羽の個人ブログです。

『ヨルダンの本屋に住んでみた』


 

「ヨルダン」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。

多くの日本人は「ヨルダン?国名だけは知っているな」「えーっと、中東だっけ。日本から遠いよね」「あ〜、アラビア語の国ね」と、ヨルダンについてほとんど知らないのではないだろうか。

わたしも、つい最近までヨルダンについて全く知識がなかった。

たまたま、2025年の大阪の万博で、「子連れ万博におすすめのパビリオンは...じゃじゃーん!ヨルダンです!」という内容をX(旧Twitter)で見かけて、「ほぅ。ヨルダン。行ってみようじゃないか」とならなければ、一生縁もゆかりもなかっただろう。

そしてそれをきっかけに、こんなに面白い本を手に取るチャンスも逃していただろう。

ヨルダンパビリオンでは、ヨルダン人がヨルダンの映像を見せながら説明してくれた。その間、説明など聞いちゃいないわが子(2)は、後ろ側に置いてあるヨルダンの伝統的な楽器(?)で遊んでいた。必然的にわたしもそちらを向くことになり、ヨルダンパビリオンに行ったもののヨルダンについてはほぼ理解できなかった。

その後、ヨルダンから持ってきたという砂漠に上がらせてもらった。そこがとてもよかった。中はプラネタリウムになっており、星が綺麗だった。砂もサラサラだった。砂漠の外に出るとカフェになっており、そこの珈琲やお菓子も美味しかった。ヨルダンの好感度が一気に上がった。

以上はあくまでも擬似体験であり、実際にヨルダンに行くとなると話は別である。そもそも、はっきりした動機と強い意志がなければ、中東の未知の国まで遠路はるばる行こうと思わないだろう。

ところがどっこい、本書の著者のフウさんは、ネットで見つけたヨルダンの本屋に一目惚れし、店長にラブコール(メール)を送ったところ、本屋で働かせてもらえることになったのだ!

https://a.r10.to/hkbriv

ヨルダンの本屋には、さまざまな国から集まった仲間がいた。同志とも呼べる彼らはフウさんのヨルダン生活を彩り、豊かにした。破天荒すぎて一生忘れられない、いくつもの思い出を作った。

読みながら、何度も「ああ、いいなぁ。一歩踏み出せば、人はこんなにも素晴らしい環境に身を置けるのだ」と感じた。

 

紹介本:『ヨルダンの本屋に住んでみた』フウ


 

絵本の選びかた

突然ですが、わたしには、もうすぐ2歳になる子どもがいます。最近わたしが家事をしている最中に、可愛い声がきこえてくると思って見てみると、自分ひとりで絵本をめくって音読していることがあります。1歳になる前から毎日絵本を読み聞かせていたので、自然と本好きな子に育ってくれているのをうれしく思います。

 

某アプリで読書記録をつけているのですが、彼は2歳目前で約400冊も読んでいます。職業柄、わたしも絵本の選書にはちょっとだけ力を入れています。では、具体的にどうやって選んでいるのか?今日はその方法をおはなししたいと思います。

 

まず一つ目は、くもんのすいせん図書。絵本選びに迷った時は、とりあえずこのリストに載っている絵本の中から選べば大丈夫、というような安心感があります。むすこの興味関心をまったく引かない絵本も含まれていますが、自分だったら選ばなかったような絵本を読むきっかけにもなります。

 

二つ目は、各出版社が発行している「児童書目録」。この目録(カタログ)、ありがたいことに無料で自宅に送付してもらえるものもあります。初めは福音館書店偕成社しか取り寄せていませんでしたが、2024年はさまざまな出版社から取り寄せてみました。

 

以下に、目録を作成している出版社を取り上げています。ぜひ絵本選びの参考になさってください。きっと世界が広がりますよ。

🆕2025.9 追加・修正しています。

※ダウンロードできる出版社もあります。
※詳細はURLをクリックしてください。

あすなろ書房あすなろ書房の本

アリス館「アリス館・子どもの本2025

※写真は2024年版

岩波書店岩波書店の児童書2024

※紙版は書店で配布

 

偕成社「偕成社 総合図書目録」「偕成社のロング&ベストセラー目録」

左が2022年版、中央が2023年版。

 

化学同人絵本&図鑑カタログ2024

教育画劇かみしばいとえほん2025

※デジタルカタログのみ

 

金の星社児童図書解説目録2024-2025 

佼成出版社佼成出版社の児童書

国土社「国土社の総合カタログ

こぐま社「こぐま社総合目録」「あかちゃんと絵本をたのしもう! 親子を結ぶミニ絵本ガイド」

※電話で依頼

小峰書店「総合図書目録2025」、「2025年度図書館総合目録」

※写真は2024年版

瑞雲社「瑞雲社のほんだより

大日本図書「2024年度 絵本・読み物カタログ」、「2020年度〜児童書目録」

※PDFのみ

 

童心社「かみしばいと図書」、「童心社の絵本ガイド」、「紙しばいだいすき」

のら書店「のら書店の子どもの本

PIE international 「児童書カタログ

※PDFのみ

 

ひかりのくに「出版目録 児童書」

※web上のみ

 

ひさかたチャイルド「児童書目録2024

福音館書店「福音館の児童書目録」「絵本の与えかた」「赤ちゃん絵本のたのしみ」「福音館の月刊絵本 定期購読ハンドブック」

※ 「福音館の児童書目録」は紙版なし

左手前が2022年版、中央手前が2023年版の児童書目録。2024年版から児童書目録はweb上のみになりました。

 

BL出版「こどもの本2024」

ブロンズ新社出版目録2025

※PDFのみ。2025年〜紙版廃止のようです。写真は2024年度版。

ポプラ社絵本の図鑑

※web上/DLのみ

『わたしは異国で死ぬ』

感想を書き留めないと落ち着かない作品に、また出会ってしまった。生まれる国や社会情勢が違えば人生はこんなにも違うのだぞ、と強烈なパンチをくらった一冊だ。

読み進めるうちに、だんだん胸が苦しくなった。登場するのは架空の人物だが、ストーリーはウクライナの史実に基づいており、かの地で起きたあらゆる出来事は、あまりにも日本の日常とかけはなれていた。ユーロマイダン革命、クリミア併合、オレンジ革命チェルノブイリ原発事故。それらを生き延びてきたひとたちの話。

 

ウクライナ人はウクライナのためにウクライナ人と闘う」

ウクライナは戦争中だが、世界はまだそれを戦争と呼ばない」

「いまだに停戦はない、平和はない」

それらの言葉が、重くのしかかる。二〇二二年にロシアがウクライナに侵攻した直後から、日本では連日のように悲惨なニュースが報道されるようになった。しかし闘いという火はずっと前から燃えたり消えたり煙がくすぶったりしており、再びメラメラと燃えはじめたのだと、本書を読んで知った。

 

一体、どれほど多くのひとの心を傷つけたら、ウクライナの闘いは終わりを迎えるのだろう。すでに誰もが大切なひとを失っているというのに。誰もが癒えることのない心痛を抱えているというのに。いまもなお、誰かが誰かの大切なひとを奪っている。彼らは皆、お互いの痛みについてよく知っているはずだ。失う痛みを知っているのだから。なのになぜー

 

日本という平和な国で生まれ、そしてこれからもずっと日本で生きていくつもりのわたしにとって、生まれてから今までずっとウクライナで闘いつづけているひとの痛みや苦しみは想像をはるかに超える。ニュースで見聞きする被害や死傷者数に目を背け、どこか他人事のように感じていたが、ウクライナに住むひとびともわたしたちと同じように家族と過ごしたり恋をしたり子どもを育てたりしている姿がありありと描かれた本書を読み、とてつもなく強く心がゆさぶられたのだった。

 

紹介本:『わたしは異国で死ぬ』カラーニ・ピックハート

『イワン・イリッチの死』

思うに、健康なひとが最も想像しがたいことは、死ぬことである。

法律学校を卒業し、結婚して子どももいて、仕事では昇進し、持ち家があり、優れたひとたちと付き合い、平凡だが申し分のない生活を送っていたイワン・イリッチ。だがその生活は、ある些細なケガをきっかけに一変する。

イワン・イリッチの死を自分の昇進と結びつけて考える職場の人間と、死がすぐそばまで迫ってきており、絶望の合間にわずかな希望が顔を見せるだけという状態のイワン・イリッチ。死が自分に差し迫ったものであるか、それとも他人事であるかによって、人間の死に対する恐怖感がまるで違う。

イワン・イリッチは、自分の生き方が道にはずれていたから、これほどまでに苦しみながら死ななければならないのか?と考える。だが、判事であった彼は、自分の生き方になにか間違ったところがあったと判決を下すことはできなかった。

肉体だけでなく精神状態も悪化していく描写がとてもリアルだった。ひとがゆっくり死にゆくさまは恐ろしく、小説の中とはいえひとの命が尽きる描写には息が詰まった。思い返せば、読みながら自分が息をしていたかどうかすら覚えていない。読後に息を吹き返したのかもしれない。

死にかけているときは、生に執着していると苦しい。生を手放すことができれば楽になれる。そうイワン・イリッチは教えてくれた。

紹介本:『イワン・イリッチの死』トルストイ

 

関連本:『イワンのばか』トルストイ

トルストイならこの短編集もまたおもしろい。子どもにもウケそうなストーリー。読みやすいので、ぜひ。

『ある大学教員の日常と非日常』

海外旅行先のトラブルは避けることができない。


わたしもアテネの空港で乗り継ぎの便が予約できていないことがわかったり、ケルンのバスターミナルで乗る予定のバスが現れず結局乗れなかったり、マドリードで数万円をなくしたり、と、いくつもの失敗を重ねてきた。そのたびに一時的にテンションは下がるが、しばらくしたら目に入ってくるものに心を奪われていた。

「いろいろあったけれど、いい旅だった」
そう思えるような旅ばかりだ。

著者は大学のサバティカル休暇のため、ウィーン大学へ客員研究員として赴く。コロナ禍の2021年10月からウィーン大学で活動開始!
...のはずだった。

 

ウィーン滞在、コロナ禍の海外旅行、外国人研究員の招聘手続き(受入側)をわたしもしたことがあるので、著者の苦労が少しだけど分かる。

 

著者の場合、東京でのビザの発給、フライトの直前キャンセルなどのため、大変ややこしかったと思う。複雑な手続きを経て、ようやくビザ取得。

 

なのに、出国当日。羽田空港の出国審査カウンターで「無効のパスポート」をもってきたことがわかったときの、崖から急降下するような絶望感!!!(なぜビザ取得の段階で職員が気づかなかったのだろう...)

 

気を落としたものの、有効なパスポートでビザを取り直し、約2ヵ月後にウィーンの地に降り立った著者はすごい。


ウィーンの観光地巡り、オペラや美術鑑賞、グラーツリンツザルツブルク、スイス、ドイツ、ポーランドなど周辺への旅と、充実したサバティカル休暇の様子。


一方、アウシュヴィッツ強制収容所のツアーと、電車内にたくさんいたロシア系移民たちの姿は、現実は楽しいことばかりでないことを思い出させてくれた。

 

自閉症スペクトラムADHDの診断を下されている著者は、ふだんから健常者よりも失敗が多い。そこで「障害者モード」で旅をするのだという。すると旅先での失敗を減らしたりパニックになることが減る。

 

大事なのは、失敗を恐れないこと。旅に失敗はつきものだと思えば心も軽い。それにトラブルのない旅行より、トラブルも含めた旅行のほうが思い出深い。


最近は様々な理由で海外旅行をするひとが減ったけれど、海外でしかできない経験はたくさんある。わたしは海外旅行が大好きだ。著者の海外旅行記を、これからも楽しみにしている。

 

紹介本:『ある大学教員の日常と非日常』横道誠

関連記事:『イスタンブールで青に溺れる』横道誠

同著者が2、30代の頃の世界周遊期。