Wunderkammer ** 司書の読書ブログ **

神戸で「なごやか読書会」を主催している羽の個人ブログです。

2021-01-01から1年間の記事一覧

『医師が死を語るとき 脳外科医マーシュの自省』

奈良の宝山寺に行ったとき、立ち並ぶお地蔵さまが高い木々に囲まれていたのが美しかった。もし死んだら、木に生まれ変わりたい、とその時に思った。死んだ後、何かに生まれ変わりたいと思ったのは、それが初めてだった。 わたしたちの多くは、不吉な「死」を…

『人新世の「資本論」』

みなさん、気候対策ってされていますか?エコバッグやマイボトルを持ち歩いている?車をハイブリッドカーに替えた?実は、それだけでは、気候危機には立ち向かえません。 それはなぜか?資本主義経済を続ける限り、気候変動を止めることは不可能だからです。…

『高校図書館デイズ 生徒と司書の本をめぐる語らい』

鋭い人はもう気づいたかもしれない。おや?と思わせるような仕掛けに。そのセンスに。わたしは本書を150ページくらい読み進め、一旦、本を閉じた時に気づいた。 本の表紙をよく見てほしい。 高校図書館デイズ: 生徒と司書の本をめぐる語らい (ちくまプリマー…

『文芸ピープル 「好き」を仕事にする人々』

ここ数年、日本の女性作家が英語圏で注目を集めている。 数年前まではアメリカの編集者の日本の女性作家に対する関心は、そこまで高くなかったという。 しかし、最近は、村田沙耶香、柳美里、多和田葉子、川上弘美、川上未映子、小川洋子、津村記久子、松田…

『西への出口』

-静寂と、暗闇と、星々の明かりが広がる世界。 こんなに読書に没頭したのはいつぶりだろう。文字を目で追ううちに周囲の物音は止み、内なる静かな場所にいた。波立っていた心が、落ち着きを取り戻していた。波長が合う物語を読むと、いつもそうなるように。…

『ケーキの切れない非行少年たち』

軽度知的障害や境界能力と言われる人々について、真剣に考えたことがあるだろうか。 率直に言うと、わたしは、不真面目な生徒の大半は、家庭環境が悪く勉強ができない、と考えていた。大学の授業で初めてLDやADHDという言葉を知り、そうだったのかと納得した…

『総予算33万円・9日間から行く!世界一周 大人の男 海外ひとり旅』

「新婚旅行で、世界一周したい!」と言いはる人間がいる。 ...わたしだ。 行きたい国が、チェコ、スイス、スペイン、フランス、イスラエルだから、どうせなら地球をぐるっと回って世界一周しようよ。フライト時間が長ければ、深夜便にして機内で眠ればいいじ…

『ポバティー・サファリ イギリス最下層の怒り』

ポバティー・サファリ イギリス最下層の怒り (新書企画室単行本) 作者:ダレン・マクガーヴェイ 集英社 Amazon 読みながら、「ああ、わたしも、ポバティー・サファリをしている者のうちのひとりだ」と思った。 ちょうどサファリパークで動物を眺めるように、…

『えほんのせかい こどものせかい』

あなたは、子どもの頃、誰かに読み聞かせをしてもらいましたか? もしあなたが親なら、自分の子どもに、読み聞かせをしてあげています(いました)か? 今日は、文字が読めない子どものために、わたしたちに何ができるのかということについて考えてみます。…

『中野京子の西洋奇譚』

人が奇譚を好むのは、本能ではないかと思う。科学や合理性で説明できない不思議な出来事は、危険への回避として、知っておきたいと思うからだ。そういう話は、細く長く語り継がれる。 『中野京子の西洋奇譚』は、その名の通り、西洋の歴史や芸術に詳しい中野…

『謎SF』

白水社から面白い本が出ている。 その名も『謎SF』。 日本ではほぼ未紹介の中・米SF短編集を、小島敬太さんと柴田元幸さんが交互に訳している。 過去に読んだ柴田訳の海外小説はハズレなしだし、きたしまたくやさんの絵からも面白さがにじみでている。そんな…

『旅が好きだ!』

河出書房新社から出ている14歳の世渡り術シリーズは、大人が読んでも楽しい。 【写真】ブログ筆者がミコノス島で泊まった宿 今回紹介するのは、『旅が好きだ!』。21人21色の旅模様。 「老後は雨乞い業でもしようか」と思うほどの雨女・酒井順子さんの土砂降…

『スマホ脳』と『デジタルで読む脳×紙の本で読む脳』

あなたは朝起きてから寝るまでに、どのくらいの時間スマホを触っているだろうか? 『スマホ脳』によると、私たちは1日に2600回以上スマホを触り、平均すると10分に一度はスマホを手に取っているという。 自分はスマホに依存していない。そう信じたい。 だが…

『ジヴェルニーの食卓』

みなさんは西洋絵画に興味がありますか? 有名な画家ならご存じかもしれませんね。ピカソやモネやゴッホ、ルノアール。もしくは大学で西洋絵画を学んだ方なら、ミレーやロセッティといった名前も耳にしたことがあるかもしれません。 この小説を手にしたきっ…

『エクソダス-アメリカ国境の狂気と祈り』

『エクソダス-アメリカ国境の狂気と祈り』は、移民たちが母国を去り、米国で難民申請をするまでの果てしない道のりと、大量の移民が生まれる原因を綴った渾身のルポ。 移民にとって、越境は命懸けだ。 例えばメキシコの南、グアテマラやホンジュラスやエル…