Wunderkammer ** 司書の読書ブログ **

神戸で「なごやか読書会」を主催している羽の個人ブログです。

『イスタンブールで青に溺れる』

カルト宗教を信仰する母に肉体的暴力を受けて育ち、学校ではいじめられ、京大院を卒業し、40歳で自閉スペクトラム症ADHDと診断されるという、異色の過去をもつ著者。

本書は、20代後半から30歳前後の彼の海外周航記である。

 

イスタンブールで青に溺れ、カサブランカで白い砂塵と化し、各地で音楽と文学をとめどなく連想する。

 


特に印象に残ったのは、モスクワ(ロシア)の章。


宗教的建築物は、横道さんが子どもの頃に受けたカルト宗教の教育を思い出させ、フラッシュバックを引き起こす「地獄行きのタイムマシン」だという。

そんな彼が最も興奮する宗教的建築物が、モスクワとその郊外の街にある。

 

生神女庇護大聖堂(通称:聖ヴァシーリー大聖堂)は、モスクワの赤の広場にある。緑と黄色、深紅と緑、青と白の巨大なソフトクリームのような塔がいくつも組み合わさった外見をしている。

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至聖三者セルギイ大修道院は、モスクワ近郊の街セルギエフ・ポサードにある、別の巨大ソフトクリームの束だ。こちらは白と青と黄金のソフトクリームだ。f:id:nagoyakabc:20221008202219j:image

日本や欧米やヨーロッパにはない形と色の組み合わせに胸がおどる。

 


モスクワは地上だけでなく、地下世界も幻想的だ。
地下鉄駅に行くには、エスカレーターでとても深く潜る必要がある。そこが核攻撃に対するシェルターとして兼用することが想定されているためだ。

コムソモーリス駅やタガンスカヤ駅の内装は宮殿のように美しい。

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当時はまだ診断されていなかった発達障害特有の症状を発症しながら世界中を旅した著者。

 

紀行文として楽しめる上に、いつも脳が働いているため疲れていて、身体の境界線もあいまい、その他諸々、当事者の生きづらさもよくわかる唯一無二の世界周航記だった。

 

紹介本:『イスタンブールで青に溺れる』横道誠

 

関連本:『死霊』埴谷雄高

カントの観念やドストエフスキーの言語空間に影響を受けた奇想小説。“虚體、自同律の不快、のっぺらぼう、過誤の宇宙史、死者の電話箱などの謎めいた単語が読者に提示されては、不明瞭なまま消えていく”という小説は、のちに旅先の横道さんを救うことになる。

今週のお題「最近おもしろかった本」