Wunderkammer ** 司書の読書ブログ **

神戸で「なごやか読書会」を主催している羽の個人ブログです。

『わたしは異国で死ぬ』

感想を書き留めないと落ち着かない作品に、また出会ってしまった。生まれる国や社会情勢が違えば人生はこんなにも違うのだぞ、と強烈なパンチをくらった一冊だ。 わたしは異国で死ぬ [ カラーニ・ピックハート ]価格: 2640 円楽天で詳細を見る 読み進めるう…

『イワン・イリッチの死』

思うに、健康なひとが最も想像しがたいことは、死ぬことである。 イワン・イリッチの死 (岩波文庫 赤619-3) [ トルストイ,L.N. ]価格: 440 円楽天で詳細を見る 法律学校を卒業し、結婚して子どももいて、仕事では昇進し、持ち家があり、優れたひとたち…

『ある大学教員の日常と非日常』

海外旅行先のトラブルは避けることができない。 わたしもアテネの空港で乗り継ぎの便が予約できていないことがわかったり、ケルンのバスターミナルで乗る予定のバスが現れず結局乗れなかったり、マドリードで数万円をなくしたり、と、いくつもの失敗を重ねて…

『ジャクソンひとり』

直感でビビッときた本は大概おもしろい。本書も例にもれず、ここ最近読んだ小説の中で、ずば抜けていた。 ジャクソンひとり 作者:安堂ホセ 河出書房新社 Amazon 主人公はアフリカと日本のミックスでゲイのジャクソン。彼は職場で、自分らしき人物のポルノ動…

『顔のない遭難者たち』

「移民」と聞くと、暴力や迫害から逃れるために他国からやってきた人々が頭に浮かぶ。しかし、生きている人間だけが移民ではない。 二〇〇〇年から二〇一六年までに、少なくとも二万二千四百人が地中海を渡る途中で命を落とした。大半の遺体は、名もなき移民…

『カーザ・ヴェルディ 世界一ユニークな音楽家のための高齢者施設』

舞台はミラノにある「カーザ・ヴェルディ」。イタリアを代表する作曲家ジュゼッペ・ヴェルディが建てた音楽家のための二階建て高齢者施設です。 カーザ・ヴェルディ ~世界一ユニークな音楽家のための高齢者施設 作者:藤田 彩歌 ヤマハミュージックエンタテイ…

『僕は死なない子育てをする』

突然だが、わたしは今、妊娠中である。 子育てについて情報収集をするなかで、育児本もよく読むようになった。そして「発達障害」をもつ「パパ」が書いた本に出会った。 人間は、就職、結婚、貯金、両家との関係維持、そして妊娠出産と順調にステップを踏ん…

『北京の秋』

ユーモアあふれる奇想小説。差別的な発言をわきにおけば、登場人物への同情とくすっと笑いが止まらない。 北京の秋 作者:ボリス・ヴィアン 河出書房新社 Amazon ヴィアンは登場人物たちにいやがらせばかりする。 冒頭、ある男が会社行きのバス停で待っている…

『物語のカギ』

読書は好き。だけど、ストーリーを追うだけではもう楽しめない。 もしくは、どう解釈すればよいのかわからない物語がある。 もしくは、物語をすらりと読み解けない。 具体的にどういう点に注意を払って読めばいいのか知りたい。 そんなひとは手を挙げてほし…

『イスタンブールで青に溺れる』

カルト宗教を信仰する母に肉体的暴力を受けて育ち、学校ではいじめられ、京大院を卒業し、40歳で自閉スペクトラム症とADHDと診断されるという、異色の過去をもつ著者。 イスタンブールで青に溺れる 発達障害者の世界周航記 (文春e-book) 作者:横道 誠 文藝春…

『テヘランでロリータを読む』

毎週木曜日の朝。大学教員の個人宅で「イスラーム共和国のクラスでは許されない自由をあたえてくれる特別なクラス」が開講された。 二十世紀の終わりに開かれたこの秘密の読書会では、大学教員のほか七人のイラン女性たちが、ナボコフやヘンリー・ジェイムズ…

『ジンセイハ、オンガクデアル』

前半は『子どもたちの階級闘争』の前日談、後半は本・映画・音楽の話が掲載されている、ブレイディみかこ色の濃い一冊である。 ジンセイハ、オンガクデアル: LIFE IS MUSIC (ちくま文庫 ふ 52-2) 作者:ブレイディ みかこ 筑摩書房 Amazon わたしがはじめて読…

『帰りたい』

帰りたいと思う瞬間は、誰にでもある。家族に会いたい、くつろぎたい、なんにせよ今ここにいたくない。だが、これほど強く「帰りたい」という言葉が胸に響く作品はいままでなかった。この世界の誰もが、帰りたい場所に帰れるわけではないのだ。 帰りたい 作…

『妻はサバイバー』

新聞記者の著者が、長年にわたって介護した妻のことを綴ったノンフィクション。 妻はサバイバー 作者:永田 豊隆 朝日新聞出版 Amazon 結婚して3年後、妻29歳の時に摂食障害が発覚。過剰な食べ吐きを繰り返し、入退院を繰り返すようになる。性被害をきっかけ…

『JK、インドで常識ぶっ壊される』

日本に住んでいたら知らなかったこと、知らなくてもすんでいたことが、インドでたくさん突きつけられて、多感な時期にたくさん吸収するものがあったと思う。 JK、インドで常識ぶっ壊される 作者:熊谷はるか 河出書房新社 Amazon 肌の色の話。宗教。カース…

『両手にトカレフ』

軽い気持ちで読み始めて後悔した。これは、単なる娯楽小説じゃない。 両手にトカレフ 作者:ブレイディみかこ ポプラ社 Amazon 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』では出てこなかったティーンたちが主人公。帯に「ノンフィクションの形では書け…

『肝臓のはなし 基礎知識から病への対処まで』

健康診断を受けていますか?その結果、気にしたことがありますか? 肝臓のはなし 基礎知識から病への対処まで (中公新書) 作者:竹原徹郎 中央公論新社 Amazon 肝臓は「沈黙の臓器」といわれます。悪くなっても通常は自覚症状がなく、検診結果の異常で偶然発…

『欧州カフェ紀行』

旅先で訪れるカフェが好きだ。老舗の喫茶店の座り心地のよい椅子。豆を挽く音と珈琲の香りがただよう空間。その居心地のよさといったらない。 とはいえわたしは珈琲は飲めないのでもっぱら雰囲気だけを楽しむ。いつか珈琲が飲めるようになりたい、と思いなが…

『死体とFBI 情報提供者を殺した捜査官の告白』

予想以上にドロドロの愛憎劇を描いたノンフィクションで、ページをめくる手が止まらなくなった。 死体とFBI 情報提供者を殺した捜査官の告白 作者:ジョー シャーキー 早川書房 Amazon 舞台はアメリカのケンタッキー州パイクビル。若きFBI捜査官マークはその…

『精神科医療の「7つの不思議」』

中学・高校では親しい友人はできなかった。大学には6年間も通ったものの、そこでも友人はできなかった。摂食障害で生理が7年間止まった。体重はかろうじて30キロを保っていた。研修医になると、アパートと病院を往復するだけの毎日。 そんな著者が精神科医に…

『妄想美術館』

妄想美術館 (SB新書) 作者:原田 マハ,ヤマザキ マリ SBクリエイティブ Amazon 作家界とマンガ界の芸術家、アート愛あふれるマハさんとマリさんの対談本。 おふたりの作品が生まれるきっかけは、妄想だといいます。文献には載っていないけれど、同時代を生き…

『西行 魂の旅路』

先日、吉野山に桜を見に行き、奥千本の「西行庵」まで足を運びました。 家に帰ってすぐ、本棚から取り出して読み始めたのが『西行 魂の旅路』。 西行 魂の旅路 ビギナーズ・クラシックス日本の古典 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス 日本の古典) …

『赤い十字』

前々回に紹介した本と同著者の『赤い十字』も良かったので、続けて紹介します。 赤い十字 (集英社文芸単行本) 作者:サーシャ・フィリペンコ 集英社 Amazon 舞台は二〇〇一年のベラルーシ。主人公のサーシャは、ある理由から、三〇歳を前にして人生の終わりを…

『誕生日パーティ』

パズル好きの友人に「最後の一ピースがはまらないジグゾーパズルなんてない」と言われたら、「ある」と、自信をもってこの本を差し出そう。 本書は、七〇年代のカンボジアのポル・ポト政権下と現在が交互に語られるミステリー小説。 カンボジアの歴史も、ク…

『理不尽ゲーム』

ここ最近、面白い小説しか読んでいないのだが、その中でも『理不尽ゲーム』は、ずば抜けて良かった。 東はロシア、南はウクライナと接する国、ベラルーシ。 ヨーロッパ最後の独裁国家では、もはや公正な選挙は行われない。抵抗すれば理不尽な武力で押さえつ…

『星のせいにして』

戦争と感染症。その両方に、今、世界中が耳目をそばだてている。 ところが、時計の針を戻すと、過去にも同じことが起きている。ロシアによるウクライナ侵攻と新型コロナウイルスのパンデミックは、一九一八年の第一次世界大戦とスペイン風邪の大流行と、「戦…

『私は男でフェミニストです』

著者「女性でもないのに、なんでフェミニズムを」 後輩「男だからよくわからないんです、学ばないと」 著者と、フェミニズムを学ぶ後輩との会話だ。その返答は、著者を目覚めさせた。自分も学ばなければならない、と思った。 近年、ジェンダーギャップ指数、…

『まとまらない言葉を生きる』

「今の自分の気持ちや状態をぴったり表す言葉をもっていない」 そんな風に思ったことが何度もあった。愛想笑いばかりする自分、言葉の足りない自分が、嫌で、変えたくて、10代後半から「ない言葉」を漁るように本を読み始めた。 この本を読んで、そんな昔の…

『SS将校のアームチェア』

点と点をつないで一本の線にする作業を目で追っているような読書体験をした。 SS将校のアームチェア 作者:ダニエル・リー みすず書房 Amazon 著者がその話を聞いたのは、二〇一一年のことだった。 アムステルダムに住む親子が、自宅のアームチェアの張り替え…

『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』

2022年早々、すごいノンフィクションに出会ってしまった。 エデュケーション 大学は私の人生を変えた 作者:タラ・ウェストーバー 早川書房 Amazon 大学に行って人生が変わったというのはよくある話で、驚くほどのことでもない。しかし、タラの場合、大学に行…