Wunderkammer ** 司書の読書ブログ **

神戸で「なごやか読書会」を主催している羽の個人ブログです。

『誕生日パーティ』

パズル好きの友人に「最後の一ピースがはまらないジグゾーパズルなんてない」と言われたら、「ある」と、自信をもってこの本を差し出そう。

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本書は、七〇年代のカンボジアポル・ポト政権下と現在が交互に語られるミステリー小説。 

 

カンボジアの歴史も、クメール・ルージュという言葉も知らない者としては、残虐なシーンがとても辛かった。


人間が人間として扱われない描写に吐き気を催し、現在の誕生日パーティの様子に胸をなでおろす、というのを繰り返し、残りのページが少なくなるにつれ、額に汗をかき、全身に鳥肌が立ってくる。クライマックスは胸がはりさけそうだった。

 

結末はやけにあっさりとしていた。これのどこがミステリーなんだ?と思った。でも、なんだか辻褄が合わないような気がした。わたしは、なにか重要なことを見落としているのか。なにか勘違いをしているのか。

 

そして、唐突に理解した。わたしはジグゾーパズルをしていた。欠けたピースを頭の中で補っていた。ピースは順調にはまっていた。ところが、最後の一ピースがはまらなかった。再度、組み立て直したら、全く別のストーリーが浮かび上がってきた。

 

「誕生日パーティ」という言葉から連想されるハッピーな感じとは真逆の、衝撃のミステリー小説。

いや、これはもう、すごいとしかいいようがない。

 

 

紹介本:『誕生日パーティ』ユーディト・W・タシュラー