ここ最近、面白い小説しか読んでいないのだが、その中でも『理不尽ゲーム』は、ずば抜けて良かった。
ヨーロッパ最後の独裁国家では、もはや公正な選挙は行われない。抵抗すれば理不尽な武力で押さえつけられる。民主化を求めるデモと弾圧の歴史が、何度も繰り返されてきた。
最終的に、国民は、理不尽なことに目をつぶって生きていくか、自由な思想・発言を求めて国外へ去るかのどちらかを選ぶことになる。
一九九九年にミンスクの地下鉄駅で起きた悲劇的な事故で、フランツィスクは昏睡状態となった。脳死状態であり、治る見込みはない、と、医師は匙を投げた。
それでも祖母は懸命に世話をし続けた。
「望みはずっとないけれど、いちばんすごい奇跡はいつも、望みがないときに起きるんだよ。望みがないときに起きるのが、奇跡なんだ......」
フランツィスクが十年後に目覚めた時、ベラルーシは昏睡状態にあった。二十六歳になった彼は、周りの景色を見て驚く。十年前から体制は変わっていない。町の人々の顔からは笑顔が消えている。不穏な空気を察し、理不尽な話を聞くにつれ、国家のもつ偉大すぎる権力の理由を徐々に理解していく。
彼が失った十年を取り戻すように嬉々として遊びはじめた頃、ベラルーシもまた目覚めかける。だが、一度は目覚めたかのように見えたベラルーシは再び昏睡状態に陥り、フランツィスクは・・・。
実際にあった事故や事件をベースに、ベラルーシの内情を描く、社会派小説。
ベラルーシや独裁国家について、知らなくてもわからなくてもいいから、手に取ってみてほしい。訳者のあとがきまで読んだら、もう一度最初から読みたくなるはずだ。
さて、理不尽な話は、いくつ見つかるだろうか。
紹介本:『理不尽ゲーム』サーシャ・フィリペンコ
関連本:『夕暮れに夜明けの歌を』奈倉有里
『理不尽ゲーム』を邦訳された奈倉有里さんの随筆集。留学先のロシアでの学生生活や恋愛を赤裸々に語る。読めばきっと旧ソ連圏の文学を好きになる。