白水社から面白い本が出ている。
その名も『謎SF』。
日本ではほぼ未紹介の中・米SF短編集を、小島敬太さんと柴田元幸さんが交互に訳している。
過去に読んだ柴田訳の海外小説はハズレなしだし、きたしまたくやさんの絵からも面白さがにじみでている。そんなわけで、この本を見た瞬間、ビビッときた。
タイトルと著者は以下のとおり。
謎に満ちた夢を見ているかのような話ばかりだった。
マーおばさん/Shakespace
曖昧機械/ヴァンダナ・シン
焼肉プラネット/梁清散
深海巨大症/ブリジェット・チャオ・クラーキン
改良人間/王諾諾
降下物/マデリン・キアリン
猫が夜中に集まる理由/王諾諾
わたしが一番好きな作品は『改良人間』。
西暦2XXX年、人間の劣性遺伝子は優性遺伝子に組み換えられ、人間は皆、健康で容姿端麗で性格も良くなった。
一見、完璧な世界のように見えるのだけれど、そこにはひとつ弱点があった。遺伝子が画一化したことにより、新種のウイルスによって人間が絶滅する可能性があるという。
そして、その新種のウイルスのいくつかは、保管庫にあるのだ。
さて、2021年現在、COVID-19より世界中の人々が同じウイルス(もしくは変異株)にかかっている。これが人類にどれほどの影響を及ぼすかは未知数だ。
でも人間は全滅しない。それは、遺伝子に多様性があるおかげだ。
『改良人間』のように、非の打ち所のない人間を生み出そうとする人間のエゴに、主人公はどう立ち向かうか。ぜひ結末を想像してほしい。
『三体』も、テッド・チャンやケン・リュウといった中国系アメリカ人の作品以外にも、まだまだある中国SF。
思わず「謎だ...」とつぶいてしまう作品は、ふつうの小説では飽き足らなくなった人に、ぜひおすすめしたい一冊だ。
関連本:『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』ケン・リュウ編
中国の女性作家が世界のSF界で大きな注目を集めるきっかけになった、郝景芳の『北京 折りたたみの都市』収録。
関連本:『郝景芳短編集』郝景芳
同著者初の短編集。