Wunderkammer ** 司書の読書ブログ **

神戸で「なごやか読書会」を主催している羽の個人ブログです。

『高校図書館デイズ 生徒と司書の本をめぐる語らい』

鋭い人はもう気づいたかもしれない。おや?と思わせるような仕掛けに。そのセンスに。わたしは本書を150ページくらい読み進め、一旦、本を閉じた時に気づいた。

本の表紙をよく見てほしい。

 

見えただろうか?

見えなかった人は、もっと目を凝らして。

 

...そう、この表紙にはさまざまなフォントの「BOOK」が整列している。本好きの中には「あの出版社のあのフォントが好き」という人が少なからずいるだろう。本書の中でも「字」についての話、フォントの話、さらには自分で物語を書いている人や読書ノートをつけている人まで、本にまつわるさまざまなエピソードが語られる。

 

登場するのは、札幌南高校という進学校の生徒や元生徒たちだ。服装は自由、部活動は三つまでかけもちしてよいという校風。水中に顔をつけたまま全力で学業や部活動をする彼らが、息つぎをするためにやってくるのは、学校図書館だ。

ここではないどこかへ行きたくなったとき、高校生が行ける場所は限られている。だから本に手を伸ばす。本は、あらゆる世界につながっている。図書館を訪う生徒たちは、利発で、柔らかいあたまで、大人をはっとさせるようなことを考えている。読んだもののことだけでなく、読むことそれ自体についても、すごくしっかり考えている。

 

わたしはというと、中学の図書室は訪れた記憶がないし、高校の図書室もほんの少ししか利用していない。大学入学後から少しずつ読むようになり、最近ようやく「あの出版社のあのフォントで読みたい」というわがまま(?)も言えるようになった。

 

だからもしも、もう一度、高校生に戻れるなら、南校みたいな自由な校風の進学校に行きたい。そこでわたしはきっと図書局員になるだろう。読んだ本の意見を交わし、友達と好きな本を交換し、読書ノートを見せ合うだろう。梶井基次郎の「冬の日」のなかの好きなフレーズをかけあうだろう。

本書を読んでいると、大人顔負けの読書論を堂々と語る高校生が目に浮かんでくる。顔は見えないけれど、好きなものについて語る生徒たちの顔は、きっと、眩しく、美しい。そう思いながら本を閉じ、読後の余韻にひたった。

 

紹介本:

高校図書館デイズ 生徒と司書の本をめぐる語らい』成田康子

 

 

関連本:『夜のピクニック恩田陸

この本は高校生のうちに読みたかった、という本はいくつかある。そのうちの一冊。