ここ数年、日本の女性作家が英語圏で注目を集めている。
数年前まではアメリカの編集者の日本の女性作家に対する関心は、そこまで高くなかったという。
しかし、最近は、村田沙耶香、柳美里、多和田葉子、川上弘美、川上未映子、小川洋子、津村記久子、松田青子、小山田浩子などの日本人女性作家が人気だ。
彼女たちの作品の多くは、英語圏の独立系出版社や文芸翻訳に特化したインプリント(出版ブランド)から刊行される。そして文学賞の翻訳部門などで賞を取り、人気が出る。一作目の評判が良いと、二作目、三作目と英訳される。
そんな海外の文芸界における最新の動向を、『文芸ピープル 「好き」を仕事にする人々』を通して知れた。日本人読者の目を海外に向けさせる本は、知らないことばかりで読んでいて楽しい。
例えば、イギリス版‘Convenience Store Woman’(原題『コンビニ人間』)の表紙が、2019年の英国装丁協会(The Academy of British Cover Design)のリテラリー・フィクション部門で最優秀賞を受賞していたのは初耳だった。
作家、書店員、文芸フェスの運営者、英語圏の新世代の翻訳家や新しい「日本文学」を編む編集者など、国内外のさまざまな「文芸ピープル」たちが、日本の文学作品を海外の読者に紹介している姿は、とても好ましかった。
日本文学の英訳に関して言うと、英語が得意な著者が限られており、書き手と訳者が密にコラボレーションすることは稀である。
だからこそ、日本人作家と翻訳家や英語圏の編集者をつなぐ架け橋となる著者のような人物や、日本人作家が国際的な文芸イベントへ参加することが大事だ。
“社会が保守化するなか、編集者は「多様な声」を読者に届けるべきだという意識が高まっているのは、例えば出版社や文芸誌などが協力して運営しているサイト「リテラリー・ハブ」でピックアップされている記事を読んでいても明らか。”
“[アジアの女性作家が欧米で読まれている背景には]「西欧」が他の国で差別やジェンダー・バイアスと対抗している人物たちの物語を必要としている側面もあるかもしれません。(略)「他者」の物語を読むことは、自分のなかにある不満を-それを完全に背負わなくても良いかたちで-探求する術であるという考えもあります。”
日本でも、少し前、韓国文学ブームがきた。
わたしもその波に乗って、試しに一冊読んでみたら面白く、他の韓国文学にも手を伸ばした。
そして、新しく訳された韓国文学をチェックし、次に読みたい本リストに加えることが、日常の一部になった。
海外の読者の間でも、日本文学で同じ現象が起きている。
2022年には、“Bullet Train”(原題は『マリアビートル』)がブラピ主演でハリウッド映画化される。
他の伊坂幸太郎作品も、多数翻訳される予定だ。
海外で日本文学といえばムラカミ(村上春樹)だった時代から、新しい日本文学の時代へと移行している時期。
わたしは、日本の読者も、そこに微力ながら貢献できると思っている。
例えば、Goodreadsなどの英語の読書アプリへ英語の感想文を投稿するとか。
英語圏には、日本語を読める人は少ない。まだ英訳されていない日本文学を知りたいという需要はある。
だから、日本人読者の言葉を世界へ発信できるようになったら素晴らしいと思う。
_✍日本文学を出版している海外の出版社/出版ブランド
➤Tilted Axis Press 柳美里『JR上野駅公園口』など
➤Strangers Press 翻訳シリーズ第一弾は、日本の作品を集めたケシキ・シリーズ
➤Picador 川村元気『世界から猫が消えたなら』など
➤MacLehose Press
➤New Directions 多和田葉子『献灯使』など
➤Grove Atlantic 吉本ばなな『キッチン』など
➤Granta 村田沙耶香『コンビニ人間』など。20 for 2020の記事もぜひ
➤Pushkin Press 島田荘司『占星術殺人事件』など
_✍海外の文芸サイト
➤Books & Bao
➤Literary hub
出版社や文芸誌が協力して運営しているサイト
➤BuzzFeed News
_✍国際的な文学賞
➤国際ブッカー賞
➤全米図書賞 翻訳部門
➤国際ダブリン文学賞
紹介本:
『文芸ピープル 「好き」を仕事にする人々』辛島デイヴィット