戦争と感染症。その両方に、今、世界中が耳目をそばだてている。
ところが、時計の針を戻すと、過去にも同じことが起きている。
ロシアによるウクライナ侵攻と新型コロナウイルスのパンデミックは、一九一八年の第一次世界大戦とスペイン風邪の大流行と、「戦争と感染症」という点では、よく似ている。
本書は、その二つの「戦い」に三つ目を足した。女性たちの身体の「戦い」、つまり「出産」である。
本書の舞台は、一九一八年のアイルランド。
主人公は〈産科/発熱〉病室を任された看護婦ジュリア。
病室には、インフルエンザに罹患した出産間近の妊婦たちがいた。
病院の仕事は激務だった。患者数はふだんの二倍、医療スタッフ数は四分の一。人手不足に加え、第一次世界大戦の影響で備品も不足していた。死の淵を歩くひとたちだけが、溢れていた。あるいは歩いて生き延びたひとたちが。
看護婦ジュリアと、お手伝いの少女ブライディが、病院の屋上で、夜空を見上げながら話すシーンがある。
「イタリアでは、病気は全部、星たちから受ける影響のせいだと思われていた-だから、インフルエンザって呼ばれるんだって」
ジュリアは、星々が小さな光の投げ縄で、私たちを生け捕りにするところを思い描く。
この一瞬のきらめきのような夜の後、
ブライディは燃え尽き、
ジュリアは希望の星を抱えて病室を去る。
戦争、感染症、出産。
どれも、命を落とす可能性のある身体の「戦い」。
病と戦争疲れに侵略された小さな四角い世界で、隣合わせの生と死が、血なまぐさいほど鮮やかに描かれた傑作。
紹介本:『星のせいにして』エマ・ドナヒュー
2022年3月時点では、同著者の邦訳作品は『部屋』のみ。これは...あらすじもレビューも読まずに読んでほしい。一体どういう状況なのだろう?と想像をふくらませながら。