Wunderkammer ** 司書の読書ブログ **

神戸で「なごやか読書会」を主催している羽の個人ブログです。

『ケーキの切れない非行少年たち』

軽度知的障害や境界能力と言われる人々について、真剣に考えたことがあるだろうか。

 

率直に言うと、わたしは、不真面目な生徒の大半は、家庭環境が悪く勉強ができない、と考えていた。大学の授業で初めてLDやADHDという言葉を知り、そうだったのかと納得したが、その時は、彼らの、ましてや知的障害者の生きづらさまでは考えが及ばなかった。

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ケーキの切れない非行少年たち』の著者は、児童精神科医として働き、その後法務技官として少年院に勤めた現・大学教授。
少年院で働いていたときに気付いたのは、少年犯罪者の中には、軽度な知的障害をもつ少年少女が多いということだった。
彼らの調書には、自尊感情が低い、感情コントロールが苦手、対人関係が苦手、基礎学力がないという言葉が並べられていることが多かった。そもそもそういう子たちは、ものが文字通り歪んで見えていたり、数を量として見られなかったり、短期記憶ができなかったり、想像力が不足していたり、手先が不器用だったりする。その結果、イジメられたり、自信を失っていたりする。

 

少年院入院後、少年たちはテストを受けさせられる。その結果によって、知的障害かどうか振り分けられる。問題は、IQ自体は高いけれど、社会面や学習面、身体面で困難を抱えている子どもたちだ。
根本的な解決がなされないままだと、少年院を出ても、社会に馴染めずに再び罪を犯し、刑務所に入ることになる。本当は知的障害者施設に入るほうがいいのに、投薬で治すと誤った判断を下され、その後何年も薬を手離せなくなる子もいる。

世の中には、そのように認知機能が低くても、適切な支援を受けられていない少年が大勢いるのではないか、と著者は考える。少年犯罪の原因は探られても、再犯防止への具体的な策はない。

そこで、本書で紹介されているのが「コグトレ」を活用する方法だ。認知機能を高めるトレーニングは、これまで適切な支援を得られなかった人々や、支援の網からこぼれ落ちてしまった人々にとって問題解決への糸口となる。

 

以前、保育現場で働く方から、「他の子と違って、明らかに障がいがあるのに、親が嫌がって子どもに診断を受けさせない」と聞いたことがある。「だから、支援学級に入ったほうがいい子も普通学級にいる」と。
それは世間体など親の都合だろう。将来、辛い思いをするのは本人だ。

子どもが勉強についていけなくなる境目は9歳頃と言われる。本書によれば発達障害の専門外来は初診まで4年も待たされるというのだから、気付いた時にすぐ「コグトレ」などで対策をとり、基礎学力を強化すれば、結果的にイジメ防止や自尊感情の向上につながるのではないだろうか。

 

何においても「絶対」というのは存在しないけれど、立ち止まった先の道が二叉に分かれているとしたら、見て見ぬふりはしない道を、わたしなら選ぶ。

 

紹介本:『ケーキの切れない非行少年たち』宮口幸治

 

関連本:『どうしても頑張れない人たち:ケーキの切れない非行少年たち2』宮口幸治

続編も気になる。