二〇世紀後半以降、続々と出現したウイルスの話。『ウイルスの意味論-生命の定義を超えた存在』同様、読みやすかった。
もっとも危険なウイルスのほとんどが、動物からの感染だという。
ウイルスの自然宿主である野生動物の生活環境に、人間が自然破壊(農業発展、都市化、戦争、森林開発)などで入り込むことによって、現代社会に感染症を招き入れている。
また、人間だけでなく海や陸の動物の間でもエマージングウイルスによる致死的な病気が起きており、人間社会から野生動物に感染を持ち込んでいる例もある。
ウエストナイル熱、エボラ出血熱、SARS、サル痘、ウシ海綿状脳症、トリインフルエンザおよびCOVID-19(coronavirus disease 2019)といった最近の流行からもわかるように、ヒトが短時間で長距離を移動できるようになった結果、ウイルスもまた予測できないスピードで広まっている。
恐ろしいことに、ウイルス感染症の発病メカニズムは、ウイルス学が著しく進歩した現在でも、実はほとんどわかっていないという。そもそもウイルスに感染するとなぜ病気になるのかが分からないのだ。
そんな中、COVID-19は世界規模で感染拡大し続けている。
WHOがパンデミックを宣言した頃には、感染は一一八の国と地域に拡大し、患者数一二万五〇〇〇人以上、死者四六〇〇人以上に達していた。
新型コロナウイルスの直近の祖先ウイルスは、コウモリの間で少なくとも数年間は循環しており、センザンコウが中間宿主となってヒトに感染したのではないかと推測されている。
ワクチンを接種し抗体をもっているヒトがウイルスに感染すると、むしろ症状が悪化する現象が古くから知られている。コロナウイルスに対するワクチンも「抗体依存性感染増強(ADE)」と呼ばれる同上の副作用の問題を抱えている。
本書では、著者が関わったウイルス研究、感染症がなぜ繰り返し現れるのか、COVID-19出現の背景、そしてウイルスとの共生という話でまとめられており、興味深かった。
最後に、山内氏の言葉を引用して締めくくろう。
“野生動物と共生していくということは、彼らの保有するウイルスとも共生する必要があるということを意味している。野生動物の生息域にヒトが入りこむ機会が多い現代社会では、野生動物を自然宿主とするさまざまなウイルスから、いかに感染を防ぐかが求められることになるだろう。”
わたしたちに必要なのは、生命を脅かす存在であるウイルスを撃退する力ではなく、共に生きる道なのだと思った。
紹介本:『ウイルスの世紀-なぜ繰り返し出現するのか』山本一也
関連本:『ウイルスの意味論-生命の定義を超えた存在』山本一也