Wunderkammer ** 司書の読書ブログ **

神戸で「なごやか読書会」を主催している羽の個人ブログです。

『肝臓のはなし 基礎知識から病への対処まで』

健康診断を受けていますか?
その結果、気にしたことがありますか?

肝臓は「沈黙の臓器」といわれます。
悪くなっても通常は自覚症状がなく、検診結果の異常で偶然発見されることが多いです。
よく指摘される異常は「血液検査の異常」と「腹部超音波検査の異常」です。代表的なものが、肝機能検査成績異常と脂肪肝になります。

 

もし、お手元に健康診断の結果があれば、照らし合わせながら読んでみてください。


まず、AST、ALT、r-GTP、ALPという値について。

ASTとALTは「肝逸脱系酵素」と呼ばれ、肝細胞がダメージを受けたときに上昇する検査項目です。

日本の成人男性の四〜五人に一人の割合で、血清ALT値の異常が指摘されるといわれています。
ALTは肝細胞の「死」を反映する極めて簡便な指標です。健康診断で引っかかるALT異常は、肝炎ウイルスによる肝臓の病気、もしくは、生活習慣にともなう肝臓の病気によるものです。後者には、アルコールの飲みすぎによる肝障害、栄養の摂り過ぎや肥満による脂肪肝が挙げられます。

r-GTPとALPは「胆道系酵素」と呼ばれており、幹細胞からの胆汁の排泄障害、胆道の通過障害など胆道系の疾患で上昇します。

 

その他にも、肝疾患診断の参考になる健診の検査項目として、総ビリルビンアルブミンなどがあります。

ビルビリンが高かったら「黄疸」の可能性があります。総ビリルビンの正常値は概ね一デシリットル当たり一ミリグラム(1mg/dL)です。2mg/dLを超えると高いと判断しますが、皮膚やまぶたの裏の結膜を見て黄疸があると認識できるのは、3mg/dL以上になってからです。

アルブミンが低ければ、肝臓の合成能力の低下、血小板が低ければ肝臓の繊維化の進行が疑われます。
※とはいっても、アルブミンが低下する疾患は、ネフローゼ(腎臓からタンパク尿が出る疾患)や栄養障害などたくさんあります。血小板の低下も、肝疾患以外でも血液疾患、免疫疾患などでも起こってきますので、即座に肝疾患とは断言できません。

 

健康診断では、動脈硬化の原因になると知られている、コレステロール値が高くなることを気にしている人が多いと思います。しかし、実は肝臓が悪くなると、血清コレステロール値は低下するそうです。


人間は肝臓なしに生きていくことはできません。同じ消化器の臓器でも、胃や食道、大腸はなくなってしまってもなんとかやっていけますが、肝臓はそういうわけにはいきません。


もし、定期的に健康診断を受けていない方は、一度受けてみることをオススメします。もし、受けていても結果はあまり気にしていなかったという方は、これを機にじっくり見てみてください。

「肝心」という言葉があるように肝臓は心臓と同じくらい大切な臓器です。


たとえ長生きしても、健康でなければ意味がありませんよね。肝臓に疾患を抱えた老人になるのか、それともピンピンした老人になるのか。健康診断の結果に目をとおすだけで、あなたの未来は変わるかもしれませんよ。

 

紹介本:『肝臓のはなし 基礎知識から病への対処まで』竹原徹郎

 

関連本:『腎臓のはなし 130グラムの臓器の大きな役割』坂井健雄

もともと『肝臓のはなし』は、父の肝臓が心配で読むことにしたのだけれど、ためになる本だったので、腎臓についても知りたくなりました。

『欧州カフェ紀行』

旅先で訪れるカフェが好きだ。
老舗の喫茶店の座り心地のよい椅子。豆を挽く音と珈琲の香りがただよう空間。その居心地のよさといったらない。

 

とはいえわたしは珈琲は飲めないのでもっぱら雰囲気だけを楽しむ。いつか珈琲が飲めるようになりたい、と思いながら、今日も紅茶を飲んでいる。

本書はガイドブックとしてもエッセイとしても楽しめる紀行本。ドイツ、イタリア、ポルトガルオーストリア、フランス、チェコ、イギリスのカフェが紹介されています。

 

旧東ドイツ時代のヴィンテージ建築のカフェや、著名人たちが通った老舗のカフェ、世界で最も美しいカフェなど、印象に残ったカフェを少しだけ紹介します。

 

1. ドイツ

珈琲はエチオピアからイスラム経由でヨーロッパに入ってきます。ロンドンのコーヒーハウスで大流行し、その波はドイツにも届きます。当初は女子禁制のロンドンのコーヒーハウス文化に倣い、カフェは男性専用の社交場でした。

時は空前の珈琲ブーム。フリードリッヒ大王は外貨の大量流出による貿易赤字を恐れ、とうとう1777年に「珈琲禁止令」を発令。珈琲に重税を課します。それでもことは収束せず、ついに焙煎もが禁止になりました。

珈琲は王侯貴族の飲み物として独占され、市民には経済的かつ健康でもある国産のビールが推奨されることになったのです。しかし市民は、珈琲が手に入らなくなると、どんぐりなどで高品質の代用珈琲を生み出しました。

おかげで1806年にベルリンで発令されたナポレオンの大陸封鎖令の時、ヨーロッパ中が珈琲不足にあえいだ時でも、ドイツ人は《珈琲》を飲み続けることができました。

Schwarzes Cafe》シュヴァルツェス カフェ

Kantstraβe 148, 10623 Berlin, GERMANY

ドイツのカフェの朝食メニューは豊富で、たいていはオープン時から午後3時か、4時ごろまで注文できるのが普通である、しかしこのカフェの朝食はさらに特別だ。朝食メニューの横にカッコ書きで「TAG&NACHT(タークアンドナハト=昼も夜も)」とある。しかもここはドイツではとてもめずらしい24時間営業。つまり24時間いつでも「朝食」が注文できる不思議な店なのである。

 

2. イタリア

Antico Caffe Greco》アンティコ カフェ グレコ

Via dei Condotti, 86, 00187 Roma, ITALIA

創業1760年。ローマはすでに世界に名だたる国際都市で、ヨーロッパ中から著名人や名の知れた芸術家達がやってきては、昼となく夜となく学術や芸術談義に花を咲かせていました。

ゲーテが目立たないように偽名でこのカフェに通い詰めていた他、アンデルセンやリスト、メンデルスゾーンワーグナーなどがこのカフェに通っていました。

このカフェは「デミタス(深煎りの豆で淹れた少量の凝縮された珈琲を小さなカップで飲むもの)」の発祥地。これはナポレオンの大陸封鎖の影響でヨーロッパ中が珈琲不足だった頃、豆を節約するために編み出された苦肉の策でした。

同じ珈琲不足でも、ドイツでは代用珈琲を生産し、イタリアでは濃く飲むために量を少なくしたのです。

 

Cafe Florian》カフェ フローリアン

Piazza San Marco, 57, 30124 Venezia, ITALY

現存するカフェとしてはヨーロッパ最古の1720年創業。老舗中の老舗。ロッシーニゲーテ、モネ、ルソー、ディケンズなどが常連として名を連ねていました。カフェラテ発祥の地ともいわれています。

 

3. オーストリア

Cafe im Kunsthistorischen Museum》カフェ イム クンストヒストリッシュン ムゼウム

Maria Theresien Platz 1, 1010 Wien, AUSTRIA

「世界で最も美しいカフェ」ともいわれる美術史美術館内のカフェ。美術館は1891年開館。640年にわたりローマ帝国を支配していたハプスブルグ家が集めたデューラールーベンスブリューゲルなどの名作が一堂に集められています。カフェへとつながる階段の途中には、クリムトの壁画がさりげなくはめ込まれていたり。

オーストリアはアレンジ珈琲が豊富。ここのメニュー・リストには「カフェ・マリア・テレジア」というのがあります。

オレンジリキュールに深煎りの珈琲を注ぎ、ホイップクリームを載せてオレンジピールや砕いたキャンディー飾る、フェミニンでありながら珈琲とリキュールのパンチが効いた飲み物である。

これはマリア・テレジアがリキュールと珈琲をブレンドしたものを好んで飲んでいたことから編み出されたそう。18世紀の中頃、彼女が火付け役となり、貴族達の間で流行った飲み方です。

 

4. フランス

パリに最初のカフェができたのは1686年。太陽王ルイ14世絶対王政が猛威を振るっていた時代です。パリ最古のカフェと言われていた『カフェ プロコップ』は、現在レストランとして営業中。カフェ時代の常連客の中には無名時代のナポレオンもいて、彼が代金の代わりに置いていったという帽子があるそうです。

 

5. チェコ

プラハに珈琲が入ってきたのは18世紀頃。

カフェの全盛期は20世紀に入ってから。新聞や雑誌が読めたので、作家や音楽家が集まる文芸カフェが栄えました。

Cafe Slavia》カフェ スラヴィア

2 Smetanovo nabr 1012/2, 110 00 Stare Mesto Praha 1, CZECH REPUBLIC

1884年創業。外の景色とその移ろいが手に届く場所で珈琲が楽しめるのが魅力のカフェ。窓側の席に座れば、モルダウ川の向こう、丘の上に凛と立つプラハ城が見えます。

 

Cafe Montmartre》カフェ モンマルトル

Retezova 7, 110 00 Stare Mesto Praha 1, CZECH REPUBLIC

旧市街の入り組んだ小路にあるカフェ。1911年創業。常連の一人に、フランツ・カフカがいる。

 

6. イギリス

イギリス最古のコーヒーハウスは、1650年にオックスフォードでオープンしました。その頃の珈琲は覚醒作用がある薬として知られていました。コーヒーハウスの入場料は1ペニー。新聞が読み放題で、あらゆる学術の専門家から貴重な話が聞けるとあって大盛況となり「ペニー大学」と呼ばれていたとか。

イギリスのコーヒーハウスも女子禁制でした。1706年にトワイニング社がコーヒーハウスで女性向けに紅茶を提供し始めます。

イギリスはオランダに珈琲貿易では遅れを取り、植民地での珈琲栽培に被害が出たこともあり、国の政策としても紅茶に力を入れるようになります。コーヒーハウスは18世紀終わり頃には衰退してしまいます。

 

昔は王侯貴族にとってステータスを誇示する贅沢品だった珈琲。今やカフェはいたるところにあり、誰もが手軽に楽しめる時代になりました。

外国でカフェに行くならどんなカフェがいいだろう、と夢をふくらませながら読み終えました。

 

紹介本:『欧州カフェ紀行』Aya Kashiwabara

 

『死体とFBI 情報提供者を殺した捜査官の告白』

予想以上にドロドロの愛憎劇を描いたノンフィクションで、ページをめくる手が止まらなくなった。

舞台はアメリカのケンタッキー州パイクビル。若きFBI捜査官マークはその初任地へ、最愛の妻と娘とともに引っ越した。

まもなくマークは、知り合いのいない土地で、初めて情報提供者を得た。銀行強盗の悪党について情報を提供してくれる、若くて綺麗だがヤク中で虚言癖のある二児の母スーザンだ。

彼女はマークに情報を提供し、見返りに報酬をもらっていた。やがて彼女はそれだけでは足りなくなり、いつしか精悍な顔立ちのマークにしつこく付きまとうようになる。

 

同じ頃、マークの妻はFBI捜査官を疎ましく思っている何者かに脅されていた。夫の職業柄、敵も多く、家の中にいても警戒しなければいけないような環境に、マークの妻は辛抱強く耐えていた。だが頭の中では警鐘を鳴らしていた。一刻も早く、パイクビルを出なければ。ついにマークの妻の願いは叶う。しかし、悲劇はもうすでに始まっていた-。

 

毎晩自宅にスーザンから電話がかかり、スーザンのことが好きな同僚はマークをやっかむ。夫婦仲は破綻寸前、マークはスーザンと距離を置きたいが、メンヘラの彼女は捨てないでと泣きわめく。

マークはどれほど心を掻き乱されていたことだろう。この二人のこじれた関係が悲劇へとつながるのだが、一瞬の気の迷いや過ちのせいで、二人の人生が音を立てて崩れてゆくのを目の当たりにしてゾッとした。

 

紹介本:『死体とFBI 情報提供者を殺した捜査官の告白』ジョー・シャーキー

 

『精神科医療の「7つの不思議」』

中学・高校では親しい友人はできなかった。大学には6年間も通ったものの、そこでも友人はできなかった。摂食障害で生理が7年間止まった。体重はかろうじて30キロを保っていた。研修医になると、アパートと病院を往復するだけの毎日。

 

そんな著者が精神科医になり、思い切って告白した。精神疾患に罹り、自殺未遂やリストカットをして薬も飲んでいたことを。すると方々から反響があった。

本書では、医者として、患者としての、両方の立場から病院で聞けない話、診察室では見えてこない姿を綴る。

 

「こころの病は、誰もが人生のどこかで出会う病気」

 

明るく元気なひとや、立派な会社に勤めているひとが、どうしてうつ病を患い、仕事に来れなくなるのだろう、と前から不思議に思っていた。 

 

わたし自身、気分に波があったり、過呼吸になったり、涙が止まらない状態になったりしたことがある。不眠を相談する為に、カウンセラーの予約をとろうとしたこともある(何週間も先、ではなく、今、聞いてほしかったので予約はしなかった)。


あの時、周囲に、話を聞いたり気遣ったりしてくれるひとがいなかったら、病院で話を聞いてもらうしかなかった。

 

精神疾患は外傷ではないので、一目ではわからない。一言では説明できない。そんなこころの病を抱えているひとが周りにいて、その人を理解したいと思ったときに有効な本。

 

➤7つの不思議

1.病名を言われずに、何十年と通院している患者さんがいる

2.何十年も薬を飲んでいるのに、ゴールが見えない

3.精神疾患の原因や薬を見つけるための研究が進んでいない

4.医師から「統合失調症はありふれた病気」と言われる

5.「病気」を自覚できない人もいるのに、病院へ行かないと治療されない

6.思春期の患者さんの入院に適した病院がほとんどない

7.成人した患者さんに対して、なぜ「家族会」が必要なのか

 

精神を患ってしまった家族、友人、会社の同僚や後輩のことを少しでも理解したいという方は、ぜひ一度手に取ってみてください。

 

★紹介本★

『病院では聞けない話、診察室では見えない姿 精神科医療の「7つの不思議」』

 

『妄想美術館』

 

 

作家界とマンガ界の芸術家、アート愛あふれるマハさんとマリさんの対談本。


おふたりの作品が生まれるきっかけは、妄想だといいます。
文献には載っていないけれど、同時代を生きた○○と△△に接点があり、実は交流していたら?


そのような妄想をふくらませるところから、おふたりの小説やマンガが生まれるのです。


マハマリさんが好きな美術館や絵画について惜しげもなく語り、読んでいるわたしの脳は次第にアートを求めはじめます。最後に美術館に行ったのはいつだったかな......

 

 

せっかくなので、対談のなかで紹介された素晴らしい美術館を一部掲載します。

 

初心者におすすめの美術館

ポーラ美術館(日本・神奈川)

日本最大級の印象派絵画のコレクションを誇る

ロンドン・ナショナル・ギャラリー(イギリス・ロンドン)
1824年にイギリス・ロンドンで創立された、西洋絵画を中心にコレクションした美術館

13世紀ごろの絵画からゴッホの《ひまわり》、セザンヌの作品など2300点以上を収蔵

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(2020年に開催された「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」には行きました)

 

原田マハの思い出美術館

インゼル・ホンブロイヒ(ドイツ・デュッセルドルフ

広大な田園風景が広がる敷地のなかに、小さな家のような展示館が点在し、来館者は地図を片手に展示館を訪ねて歩く

バーンズ財団美術館アメリカ・フィラデルフィア

研究者以外には公開するべからずとの遺言があったため、長らく謎のコレクションとされてきたが、2012年美術館として一般公開された

 

ヤマザキマリの思い出美術館

ウフィツィ美術館(イタリア・フィレンツェ

ルネサンスの発生から衰退までを知るためには欠かせない場所

ロンドン・ナショナル・ギャラリー(イギリス・ロンドン)
ルーブル美術館(フランス・パリ)
シチリア州立美術館(イタリア・パレルモ
ヴェネチア・アカデミア美術館(イタリア・ヴェネチア

 

ここに挙げた以外にも数十館の美術館について語られています。美術史や絵画の知識だけでなく、実際に世界中の美術館を訪れている方がおっしゃることには説得力があります。

わたしも自分の言葉で美術を語れるようになりたい。そのために、世界中のさまざまな美術館、まずは本書で紹介された美術館から訪れてみたいです。

 

紹介本:『妄想美術館』原田マハヤマザキマリ