Wunderkammer ** 司書の読書ブログ **

神戸で「なごやか読書会」を主催している羽の個人ブログです。

TIME誌が選ぶ「2021年の必読書100冊」

毎年発表されるTIME誌の必読書100冊。 今回は、2021年に選ばれた100冊のうち、日本語で読める本を取り上げます。 ①『ヘヴン』川上未映子 ヘヴン (講談社文庫) 作者:川上 未映子 講談社 Amazon いじめがテーマの小説。痛いところをつく言葉が印象に残っており…

『医師が死を語るとき 脳外科医マーシュの自省』

奈良の宝山寺に行ったとき、立ち並ぶお地蔵さまが高い木々に囲まれていたのが美しかった。もし死んだら、木に生まれ変わりたい、とその時に思った。死んだ後、何かに生まれ変わりたいと思ったのは、それが初めてだった。 わたしたちの多くは、不吉な「死」を…

『人新世の「資本論」』

みなさん、気候対策ってされていますか?エコバッグやマイボトルを持ち歩いている?車をハイブリッドカーに替えた?実は、それだけでは、気候危機には立ち向かえません。 それはなぜか?資本主義経済を続ける限り、気候変動を止めることは不可能だからです。…

『高校図書館デイズ 生徒と司書の本をめぐる語らい』

鋭い人はもう気づいたかもしれない。おや?と思わせるような仕掛けに。そのセンスに。わたしは本書を150ページくらい読み進め、一旦、本を閉じた時に気づいた。 本の表紙をよく見てほしい。 高校図書館デイズ: 生徒と司書の本をめぐる語らい (ちくまプリマー…

『文芸ピープル 「好き」を仕事にする人々』

ここ数年、日本の女性作家が英語圏で注目を集めている。 数年前まではアメリカの編集者の日本の女性作家に対する関心は、そこまで高くなかったという。 しかし、最近は、村田沙耶香、柳美里、多和田葉子、川上弘美、川上未映子、小川洋子、津村記久子、松田…

『西への出口』

-静寂と、暗闇と、星々の明かりが広がる世界。 こんなに読書に没頭したのはいつぶりだろう。文字を目で追ううちに周囲の物音は止み、内なる静かな場所にいた。波立っていた心が、落ち着きを取り戻していた。波長が合う物語を読むと、いつもそうなるように。…

『ケーキの切れない非行少年たち』

軽度知的障害や境界能力と言われる人々について、真剣に考えたことがあるだろうか。 率直に言うと、わたしは、不真面目な生徒の大半は、家庭環境が悪く勉強ができない、と考えていた。大学の授業で初めてLDやADHDという言葉を知り、そうだったのかと納得した…

『総予算33万円・9日間から行く!世界一周 大人の男 海外ひとり旅』

「新婚旅行で、世界一周したい!」と言いはる人間がいる。 ...わたしだ。 行きたい国が、チェコ、スイス、スペイン、フランス、イスラエルだから、どうせなら地球をぐるっと回って世界一周しようよ。フライト時間が長ければ、深夜便にして機内で眠ればいいじ…

『ポバティー・サファリ イギリス最下層の怒り』

ポバティー・サファリ イギリス最下層の怒り (新書企画室単行本) 作者:ダレン・マクガーヴェイ 集英社 Amazon 読みながら、「ああ、わたしも、ポバティー・サファリをしている者のうちのひとりだ」と思った。 ちょうどサファリパークで動物を眺めるように、…

『えほんのせかい こどものせかい』

あなたは、子どもの頃、誰かに読み聞かせをしてもらいましたか? もしあなたが親なら、自分の子どもに、読み聞かせをしてあげています(いました)か? 今日は、文字が読めない子どものために、わたしたちに何ができるのかということについて考えてみます。…

『中野京子の西洋奇譚』

人が奇譚を好むのは、本能ではないかと思う。科学や合理性で説明できない不思議な出来事は、危険への回避として、知っておきたいと思うからだ。そういう話は、細く長く語り継がれる。 『中野京子の西洋奇譚』は、その名の通り、西洋の歴史や芸術に詳しい中野…

『謎SF』

白水社から面白い本が出ている。 その名も『謎SF』。 日本ではほぼ未紹介の中・米SF短編集を、小島敬太さんと柴田元幸さんが交互に訳している。 過去に読んだ柴田訳の海外小説はハズレなしだし、きたしまたくやさんの絵からも面白さがにじみでている。そんな…

『旅が好きだ!』

河出書房新社から出ている14歳の世渡り術シリーズは、大人が読んでも楽しい。 【写真】ブログ筆者がミコノス島で泊まった宿 今回紹介するのは、『旅が好きだ!』。21人21色の旅模様。 「老後は雨乞い業でもしようか」と思うほどの雨女・酒井順子さんの土砂降…

『スマホ脳』と『デジタルで読む脳×紙の本で読む脳』

あなたは朝起きてから寝るまでに、どのくらいの時間スマホを触っているだろうか? 『スマホ脳』によると、私たちは1日に2600回以上スマホを触り、平均すると10分に一度はスマホを手に取っているという。 自分はスマホに依存していない。そう信じたい。 だが…

『ジヴェルニーの食卓』

みなさんは西洋絵画に興味がありますか? 有名な画家ならご存じかもしれませんね。ピカソやモネやゴッホ、ルノアール。もしくは大学で西洋絵画を学んだ方なら、ミレーやロセッティといった名前も耳にしたことがあるかもしれません。 この小説を手にしたきっ…

『エクソダス-アメリカ国境の狂気と祈り』

『エクソダス-アメリカ国境の狂気と祈り』は、移民たちが母国を去り、米国で難民申請をするまでの果てしない道のりと、大量の移民が生まれる原因を綴った渾身のルポ。 移民にとって、越境は命懸けだ。 例えばメキシコの南、グアテマラやホンジュラスやエル…

『ウイルスの世紀』

二〇世紀後半以降、続々と出現したウイルスの話。『ウイルスの意味論-生命の定義を超えた存在』同様、読みやすかった。 もっとも危険なウイルスのほとんどが、動物からの感染だという。ウイルスの自然宿主である野生動物の生活環境に、人間が自然破壊(農業…

『ノマド-漂流する高齢労働者たち』

日本で「ノマド」と聞くと、オフィスではなくカフェやレンタルスペースで働く人をイメージするかもしれない。だが、本来の「ノマド(Nomad)」の意味は、「遊牧民」や「放浪者」。本書に登場する「ノマド」は、文字通り、「放浪する人々」を指す。 人々が路…

『ここにしかない大学 APU学長日記』

在留資格が「留学」である学生が半数を占める大学、APU。 実はわたし、昨年の春にAPUに行き、キャンパスをこの目で見ました。大学の周りは山以外なーんにもなく、四年間集中して学べそうな環境でした。 『ここにしかない大学 APU学長日記』の中で、出口学長…

『関西文系散歩』

暇さえあれば、本を探している。 気づけば、某アプリで管理している読みたい本は、10年間で2000冊を超えた。今後も200冊/年のペースで増え続けるとしたら、この先、全て読み切れる可能性は低い。なのに読みたい本は確実に増えていく。 なんといっても、今は…

『専門図書館探訪』

今回紹介するのは、日本の専門図書館に特化した本、その名も『[https://amzn.to/2WiwDjT:title=専門図書館探訪]』です。 日本では1900年代に、多くの専門図書館が生まれました。 公立図書館と違い、特定の分野の図書を集めている専門図書館。研究などで、専…

『追跡!辺境微生物』

新型コロナウイルスが巷を賑わせ、皆がウイルスの本を読む中、細菌についての本を読んだ。 追跡!辺境微生物ー砂漠・温泉から北極・南極まで 作者:中井 亮佑 築地書館 Amazon ウイルスは、宿主である細胞を持つ生物に寄与しないと増えることができない。だが…

『未来のだるまちゃんへ』

日本が誇る絵本作家・かこさとしさん。『未来のだるまちゃんへ』では、かこさんの生い立ちから始まり、戦時中〜敗戦の経験、大学時代の演劇研究会、社会人時代のボランティア活動、その後の絵本作家としての活動が語られ、これからを生きる子どもたちへのメ…

『センス入門』

自分が好きな本、音楽、アートなどを、人から「センスがいい」と褒められるとうれしい。なぜなら、モノを通してモノを選択した自分を褒められているからである。「それどこで買ったの?」や「その発想はなかった」と言われるのも、「センスがいい」の変形で…

『ゴリラの森、言葉の海』

言葉が通じない生き物を相手にする学者と、言葉で世界を構築しなおす作家。別世界で生きている人同士の対談は、互いが互いを尊重していればなおさら、おもしろいものになる。 前者の山際寿一さんは霊長類学者・人類学者。2014年より京都大学総長をされている…

『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』

今回紹介するのは、第50回大宅壮一ノンフィクション賞及び第18回新潮ドキュメント賞を受賞した『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』。 選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子 (文春文庫) 作者:河合 香織 文藝春秋 Amazon 本の紹介の前に…

『生命科学クライシス 新薬開発の危ない現場』

とある製薬企業が新薬開発につながる論文を探し、再現しようとした。ところが、論文執筆者たちの協力を得ても、再現できた実験はたったの一割しかなかった。二〇一二年、この「再現性」の問題は『ネイチャー』誌に掲載され、一躍注目を浴びた。ALSの臨床試験…

『未来をつくる図書館』

首都圏ではすでに公開されている映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』。moviola.jpわたしが住んでいるところでもそろそろ公開されるのですが、それに先立って大阪市立中央図書館で行われたトークイベントに参加してきました。当日、約300人がひ…

『図書館巡礼「限りなき知の館」への招待』

図書館で本を借りると、本の背表紙にだいたい数字が書かれていますよね。図書館によって表示方法は多少ちがいますが、あれは日本十進分類法(NDC)に則った国内共通の図書館本の分類によるもので『図書館巡礼』は010にあたります。010が何を指すかというと「…